コンピュータのマニュアルってほんとに必要?
文・田中 あゆみ
デジカメを買って家に着いた瞬間、パッケージの封を切るのももどかしく、カメラを手にとる。ためつすがめつ、ひっくりかえし、さあ、シャッターを切ろうとしたら、シャッターが切れない。あああ。心ときめくこの瞬間にマニュアルを取り出して読まなければならないなんて、うんざりしませんか。
私達は15年以上コンピュータのマニュアルを作ってきました。でも、新しいソフトやDVDを買うたびに、「なんでこんな時にマニュアルをひっぱりださなきゃならないんだ」と思ういまいましい気持ちは、普通のユーザと変わりません。
で、ここで「マニュアルってほんとに必要?」と思っている私達が「どんなマニュアルを作りたいか、マニュアルを使わないためにはどうしたらいいか」と考えていることを、ちょっと聞いてもらえませんか。
●1964年、母が車の免許をとった時は、今の自動車整備士試験なみにむずかしい「構造」という科目の試験がありました
道ばたでエンストしてフードから黒煙が上がっても、携帯でJAFFをよぶわけにもいかず、ガソリンスタンドが今みたいにそこらじゅうにあるわけでもなく、自分一人でなんとか修理するしかなかった時代の話です。父に小言をいわれながら、勉強していた姿はうっすらとおぼえているのですが、今になって考えてみると、あのドライバーひとつ使えない機械オンチの彼女が、エンジンの構造や燃料爆発の仕組みをどうやって理解したのか。まったくもって気の毒な話で、今さらながら同情の念に耐えません。
今のコンピュータって、1964年当時の車がちょっと進歩した程度の性能かもしれません。コンピュータを使うのに試験こそないけれど、ちょっとしたトラブルに対処するにも、ずいぶんな基礎知識を要求されます。2002年現在の車とは大違いです。
●「GUIだの、ウィンドウズだの、そんなものが出てきたのは最近じゃないか。ついこのあいだまで、全部コマンドで処理してたんだ。この進歩を車と比べるのは大間違いだ」
車の運転も1940年代あたりまでは、特殊技能に属し、運転手は高給が保証されていました。コンピュータの技術革新のスピードは車とは比較になりませんが、それでも、初心者にとってはブラックボックスとは言いがたい。
●早いところ、コンピュータはブラックボックスになればいい
と、私達は思っています。新しいアプリケーションをインストールさえしてしまえば、分厚くて重いマニュアルなんかひっぱりださなくても、そしてそれでも、にっちもさっちもいかない時には、(悔しい思いをしてまで)同僚や友達に聞かなくても、画面上で操作するだけで使えるようにならないか。
●マニュアルは過渡期の産物だ
「マニュアルを読んで頭に入れてから、アプリケーションの操作にとりかかる人なんてほとんどいない」ということを充分に理解した上で、私達はマニュアルを制作しています。
メニューに出てくる用語の解説もせずに、いきなり専門用語満載で手順だけを書き連ねるなんてマニュアルは論外。冒頭部分では、アプリケーションの全体を見渡し、機能を整理してなにができるのかを提示、そのあと共通操作をまとめて解説します。
その後ろに来るのが、それぞれの機能の説明です。ただし、一番重要なのは、マニュアルのどこを開いても、必要な時に、必要なことがその場ですぐにわかること。コンピュータの操作中に手をとめて、あっちこっちページをひっくりかえすのはどんなに面倒か、私達は身にしみてわかっています。
予算が許せば、「全体を見渡した後で、こんな応用もできる」という概要篇と、「そのページの前後を読むだけで、問題が解消する」という操作篇を分冊にすると、かなり便利に使えるようになります。
ドキュメント作成の専門的なテクニックは、このホームページの別の箇所で公開しています。
●ユーザサポートの人達って、問い合わせの電話に対して「それはマニュアルの150ページにあります」って言ってはいけないのでしょうか。
マニュアルを作っている私達の素朴な疑問です。それほど世の中、マニュアルに対してアレルギーがあるのでしょうか。操作中にマニュアルをひっくり返すのがいまいましいのは確かだけれど、わざわざサポートデスクの電話番号を調べて、電話をかけ、こちらの状況を説明するのも相当に面倒じゃないか、
と思うのですが。要は、「マニュアルを読むことに耐えられない、どうせ読んでもわからない」ということでしょうか。
●ビジュアルなヘルプがあったら便利
キーボードを打つ手を止めて、マニュアルをひっぱり出すのがそれほど面倒なら、ということで、私達は図を多用したビジュアルなヘルプも制作しています。Flashの機能をフルに生かし、動作が軽くて早い。クリックするだけで、必要な手順が画面上に次々に展開します。
●画面デザインがちゃんとしていれば、マニュアルもヘルプも出番は減るはず
画面を見ただけで、アプリケーションを直感的に使えるようにならないかと、原点に立ち返って考えました。アイコンをクリックするだけでソフトが動いたり、ウィンドウが同時にいくつも立ち上がったりと、ちょっと前に比べれば技術的な進歩はめざましいものがあります。それでも、普通の人がメニュー名を見ただけでどんなことができるのか、さっぱりわからないものもまだたくさん残っています(最初にプロパティという用語を見た時、何のことだかすぐにわかりましたか)。
エンジニアにとっては当たり前のこういう用語を分かりやすい言葉に変更したり、操作中に迷子になったりしないよう、アイコンや画面のデザイン、画面の展開方法を提案する仕事もしています。ある程度、デザインが完成した段階で、関係者以外の人に使い勝手のテストもしてもらい、ひとりよがりのデザインにならないよう、最大の注意を払っています。
長い文章をここまでずっと読んでくださった方に感謝。当たり前のことばかりじゃないか、という方もたくさんいらっしゃるでしょうが、まだまだ、コンピュータ業界、普通の人の素朴な感想が通用するとは思えないところもあります。
●最後にもう一度PR
使ってもらえるマニュアル、Helpが作りたい、サポートのコストを減らしたいとお考えになる方、ぜひ私達に声をかけてください。
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